Monsters by Claire Dederer
ここに書くのは久しぶりになってしまったけれど、相変わらず移動時間にBBCのポッドキャストを聴き込んでいる。最近面白かったのはこれ。
偉大なる天才的な芸術家やアーティストが、実生活では今日の道徳規範からしては許されないことをしたモンスターであることは往々にしてある。こうした人々に対して、ファンはどう向き合えばいいのか、そのディレンマについて書かれた本の朗読。冒頭に出てくるのはウッディ・アレン。パートナーの子供(当時10代)と性的関係を持った。それからデビッド・ボウイ。彼も10代の女性と性的関係を持った。当時はそういうものだったから?だから特に咎めることなく、彼らの偉大な芸術を消費していてよいの?という居心地の悪さを論じている。
著者はライターで、学者ではないこともあり、後半は物足りない印象。てか、これは学者がきちんと取り組まないといけないことだろう。
政治思想分野だと、10年くらい前にトマス・ポッゲの院生に対するセクシャル・ハラスメント問題があった。私は自分の授業でポッゲを扱うときは、彼のセクハラの話をすることにしている。彼は今もイェール大にいて、どうやら普通に授業も持っているらしいので、授業に出た学生が彼のいる大学院に行くこともあるかもしれないし。
当時、英語圏ではいろいろな動きがあって、彼が出るカンファレンスには出ないとか、彼の研究を授業で取り上げないことを宣言する研究者もいた。前者はともかく、後者については、彼の研究や貢献を無視することは学生にとってはむしろ不利益になると思うので、私はセクハラの話をした上で、彼の議論や貢献を紹介する。それでいいのかどうかはわからない。
偉大な芸術〔や研究〕を生み出して後世に残る貢献をすれば、許されないことをしても、人を傷つけても、輝かしい功績の光によって、罪深い行為はみな霞んでしまう。でも霞ませているのは、彼らの業績を讃える私たちでしょう。という訴えが印象に残った。この件は、そのうちどこかに何か書こうかな。
ところで、この本の著者のClaire Dedererは、wikipediaによると、Lumpとかを歌ってたThe President of the United States of Americaのギタリストが兄弟だそう。なつかしい。
元の本はこちら。
Project Hail Mary
The Meat Paradox by Rob Percival, episodes 3-5
Episode 3-5までまとめて聞いた。一回15分なのは良いな。以下、印象に残った点。
- ヴィーガニズムを全ての人が全面的に追求すべきだとは言えない。目指すべきは、人間が環境に対して与える危害の縮減(harm reduction)なので、例えば車に轢かれた動物の肉を食べることは間違っていない。その肉を腐らせて無駄にするよりも、食べて栄養とした方がよい。
- 肉食は栄養価が高い。途上国で栄養状態が悪い場合など、肉食により効率的に栄養を摂取すべき人々はいる。
- 問題は、人々が肉を食べすぎていること。現状のレベルでの食肉生産は環境への負荷が高すぎる。肉を食べる量や頻度を減らすべき。
- 環境に負荷の低い農業には、動物が必要。農耕用の動物が年を取って弱ってしまったら、その動物を食べることは間違っていない。
極端な(単純な)ヴィーガニズムには与しない穏当な立場からの議論。この議論を踏まえて、ヴィーガンになりたい夫に対しては、我が家の冷蔵庫に余っている牛乳について、「harm reductionの観点から考えるなら、無駄にするくらいなら飲むべき」と言ってみよう(以前、ヴィーガン的には牛乳を飲むことはできないと言われた)。
The Meat Paradox by Rob Percival, episode 2
ようやくmeat paradoxの説明があった。私たちは動物の福祉(幸福)をとても気にかけている。動物が良き生を送ることは私たちにとって重要だ。それにもかかわらず、私たちは動物を食べる。これが逆説的だと。
前者の例として、2016年のBrexitについての国民投票前のキャンペーンで、Brexit支持派が、動物の幸福のためにEUから独立しようというキャンペーンを張っていたという話が面白かった。EUは動物の虐待に加担しており、Brexitによって動物の幸福に貢献できると主張したらしい。「彼ら」に対して「私たち」は動物を愛する善い人間なのだというアピールの仕方。移民や医療財源に関するキャンペーンよりも成功したとのこと。
Brexitが決まった後、アメリカとの貿易協定の交渉過程でも、アメリカの食肉産業による動物の扱いが問題になったそうだ。これほど動物の福祉を大事だと考えているのに、私たちは動物を食べるという矛盾。
The Meat Paradox by Rob Percival, episode 1
Ideas: What Money Can't Buy, Michael Sandel
サンデルのWhat Money Can't Buy (2012)出版から10年目の節目に、今日の世界における市場の意味について考える内容。マイケル・イグナティエフも参加。
メモ:格差の拡大により、異なる経済状況にある人々の間につながりが弱まっている。この繋がり、共同性をどう作るか(サンデル)。また、essential workersへのリスペクトについて。ただ敬意を払うだけではなく、相応の賃金を支払うことで敬意を示すべき(イグナティエフ)。
議論のまとめが下記リンク先にあり。
From university admissions to body parts: what isn't for sale? | CBC Radio
In our time: Rawls' Theory of Justice
www.bbc.co.uk
ロールズ『正義論』が登場。私が目にしている限りでは、Twitterにいる欧米の哲学者界隈では評判が良く、褒めている人も多いのだが、結構難しい内容だと思う。少なくとも初学者向けではなさそう。哲学の素養がある程度ある人向けと思われる。講義の前に要点を復習するのには良さそう。
講義用メモ:社会契約論のラディカルな解釈、ケーキを分ける比喩、デモクラシーの位置付け、反省的均衡の説明わかりやすい。紹介された最近の批判は、ロールズ正義論が人種問題をめぐる正義に応えていないこと(Charles Mills)と、フェミニズム(Susan Okin)からの批判。